より洗練された推理ジュヴナイルとなっています
「獣人魔島」（横溝正史）
（「横溝正史少年小説
コレクション④青髪鬼」）柏書房
「真珠塔」（横溝正史）
（「真珠塔･獣人魔島」）角川文庫
真珠王･柚木老人の屋敷で
催される仮装舞踏会。
そこで公開される
宝物･真珠塔を、
怪人･金色コウモリが
狙っているという。
柚木老人は
その怪人の仮装で登場するが、
さらに二人の怪人が現れ、
舞踏会は混乱する。
怪人の正体は一体…。
昨日取り上げた横溝ジュヴナイル
｢深夜の魔術師｣(1938年)を改訂し、
1955年に発表されたのが
本作品｢真珠塔｣です。
骨格となる部分に変更はないものの、
細部が改められ、より洗練された
推理ジュヴナイルとなっています。
【主要登場人物】
金色コウモリ
…巷間を騒がせている怪人。
柚木老人(真珠王)
…真珠塔を所有。
本物を秘密の場所に隠す。
柚木弥生
…柚木老人の娘。15歳。
真珠塔を見つけ出そうと奔走。
柚木博士
…真珠王の弟。
丹羽百合子
…女優。金色蝙蝠に殺害される。
黒河内晶子
…女優。金色蝙蝠に操られる。
ニコラ神父
…真珠王と縁のある教会の司祭。
川口鈴江
…足の不自由な少女。
等々力警部…警視庁警部。
御子柴進…新日報社給仕。探偵小僧。
三津木俊助…新日報社記者。
｢真珠塔｣への進化①
金色コウモリが軍事スパイから怪盗へ
戦前に発表された｢深夜の魔術師｣では、
金色蝙蝠は柚木子爵の発明した
無音航空機(現在のステルス戦闘機?)の
設計図を盗み出すという
軍事スパイ的行動でしたが、
平和な戦後となり、その役割は
単純な｢怪盗｣となっています。
柚木老人が
全財産をつぎ込んで完成したという
真珠塔の在処をめぐって、
三津木俊介と火花を散らします。
｢真珠塔｣への進化②
古館少年は御子柴少年へ
｢深夜の魔術師｣で大活躍した
古館譲少年は、｢幽霊鉄仮面｣や
｢夜光怪人｣でもおなじみの
御子柴進少年へと交代しました。
さすがに由利麟太郎を晒し者にしたのは
(｢深夜の魔術師｣の記事参照)
まずかったと思ったのでしょうか、
本作では由利先生を登場させず、
三津木･御子柴の
ジュヴナイル専門コンビで
金色コウモリを迎え撃ちます。
これによって登場人物がすっきりし、
シリーズの一環として
編み込まれたことになるのです。
｢真珠塔｣への進化③
悪役もさらに一ひねり
｢深夜の魔術師｣を読んだことのある
読者への配慮でしょうか。
金色コウモリの正体には
さらに一ひねりが加わっています。
横溝の旺盛なサービス精神が
感じられます。
さて、
角川文庫版に収録されている本作品も、
山村正夫の編集の手が入っています。
まもなく発売される｢横溝正史
少年小説コレクション④青髪鬼｣では、
本作の原典版が収録されています。
そちらがどのようになっているかも
楽しみです。
（2021.9.20）
〔追記〕
｢横溝正史少年小説
コレクション④青髪鬼｣を
購入しました。
全篇面白さ満載です。
なお、｢真珠塔｣の編集ですが、
大きな改訂は確認できず、
マイナー･チェンジといった
ところでしょうか。
（2021.10.7）
〔追記〕
角川文庫｢真珠塔･獣人魔島｣が
ついに復刊しました。
内容は同じであるにもかかわらず、
またしても購入してしまいました。
表紙はまったく同じです。
色艶がよくなりました。
（2022.12.13）
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